2011/05/08

科研費審査のあり方の疑問と問題点

ついに連休も終わり、来週からはまた通常の日々に戻ります。
新学期開始時期は、実は大学教員にとって「科研費」の内定が来る時期でもあるのですが、
これに申し込んだ研究者の間では、科研費の審査結果をめぐって一喜一憂の光景が
繰り広げられている時期でもあります。

「科研費」とは、「科学研究費」の略称で、いわゆる国(政府)による研究費のこと。
ひとくちに「科研費」といっても、文部科学省の科研費、厚生労働省の科研費や科学技術関係の
科研費などさまざまありますが、最もメジャーなのが文部科学省の科研費。
これは、通常、文部科学省傘下の法人である日本学術振興会というところが取り扱います。

科研費は国の研究費ということもあり、日本の研究者の間では最もポピュラーなものと
いわれております。ですので、当該分野の権威や大家といわれる大物から、大学や
研究機関にポストを得たばかりの出だしの者まで、毎年秋になると、多くの研究者が総出で
プライドをかけて応募するものでもあります。審査も公には当該分野の専門家によって
公平に行われているとされておりますし、性質上、当然そうでなければならないでしょう。

しかし、科研費の審査が果たしてどれだけしっかりと、しかも公平に行われているのかを
めぐっては、常にさまざまな論争や疑惑が絶えません。

たしかに、自分の周囲をみてみても、申請に関連するテーマでの実績や業績も素晴らしく、
申請書もよく書けている人が不採択だったり、その逆の例もかなり多くあります。
着眼点がよく、今後重要になると思われるような研究が不採択だったり、逆に、明らかに
どうみても個人的な道楽としか思えないような研究が採択され、しかも多額の研究費が
付けられていたりなどというのは枚挙に暇がありません。

こういうケースや話をよく目の当たりにすれば、科研費とはいったい何を基準に審査
されているのか、なんだかんだいっても、申請書の内容そのものというよりは、
結局は政治力や申請者の研究者としての知名度によって、ほぼ採択・不採択が
決まるのではないかとの疑念の声が上がっても無理もないように思います。
(あるポスドクや若手教員レベルの研究者が出した研究計画が不採択になったにも
関わらず、まったく同じ研究計画を今度はボスの名前や有力者の名前で出したら
通ったなどというケースは、その最たるものです。)

こういうことは、何も科研費だけに限った話ではなく、民間財団の研究費の審査なんかでも
あることでしょう。ただ、民間財団の場合は、あくまで財団の理念や研究費の趣旨に
沿った研究計画であることが第一に求められ、審査も主にそうした観点から行われるので、
自分の経験からいっても、科研費に比べれば、まだはるかに客観的で透明性も高く分かり
やすいですし、対策も立てやすいといえます。

科研費の場合、不採択者の審査結果には、不採択者の中でどの程度の位置にあったのか
A、B、Cによるランクが付される程度であり、最近でこそ、審査コメントも付されるように
なったようですが、その審査コメントも非常にあっさりした、ほとんど審査員の主観に起因する
「上から目線」的なようなもので、どこがどのように悪かったのか、どこをどのように改善すれば
採択の可能性が上がるのか、などといった建設的なコメントがあるわけではないと聞きます。
これでは、どこが至らなくて採択されなかったのか、その原因が釈然としないために、
今後、どのような戦略を立てて応募したらいいのか分からず、結果的に申請者の
研究者としての発展に繋がらず、悪循環をもたらすと思われます。

科研費は出す分野や種目、審査員が誰なのかも重要なようで、一度不採択になった
申請書をほとんど修正せずに出したら、今度は通ったというような話もよく聞きます。
(なぜなら、審査員は2年くらいでほとんど入れ替わるため。)このことはつまり、
審査員の目次第、そして応募分野によって同じ申請内容でも評価が大きく異なると
いうことを指しているのでしょう。
(科研費に関しては、よく「通った」「採択された」というよりも、「当たった」というような
言い方がなされるのは、まさにこうした所以からなのでしょう。)

ちなみに、アメリカなどでは、国の研究費の審査においては、審査の経過や審査員名も
具体的に公表されます。また、審査結果に不服の場合は、それに申し立てができるような
制度もしっかりと確立され、しかもそれがよく機能しております。

国民の税金を使った研究費である以上、申請者だけでなく、審査する側の方にも
説明責任があるはずです。日本も、科研費に関してぜひこうした制度を設けてほしい
ものと思います。
(しかし、そうしたら、不服だらけで文科省や学術振興会は大変なことになると思うが。。。
でも、そうでもしないと、この国のほんとうの意味での学術の発展はないと思います。)

2 件のコメント:

  1. 同感です。私の周辺では,総花的なプロジェクト型はよく採用されていて(すげー無駄遣いなの明らかなのに),自分は実績もあったし作文的にも完璧なのに落とされ,ショックです。
     落ちた場合の審査結果の開示は毎回希望してましたが,今回初めて見ましたけど,これは公開の意味ないですよね。バカにしているとしか思えん。

    返信削除
  2. 今年、任期付きの専任教員として初めて大学に就職しました。大学に言われるがまま科研費の応募をしましたが、結果は「不採択」でした。どうやったら科研費が取れるのか本当にわかりませんでしたし、気持ちも落ち込んでしまいました。ですが、この日記に書かれていることを見て、気持ちが少し楽になったようにも思います。この経験を踏まえて研究費が取得できるよう、さらに研鑽を積んでいきたいと思います。

    返信削除